ConstitutionDAOが切り拓いたWeb3の道
今週の米国テックは、ConstitutionDAOの話題で持ちきりでした。
インターネットのみんなと一緒に憲法を買おうとするConstitutionDAOは、クリプト/Web3の歴史に名を残したという風に早速語られています。
この1週間で一体何が起こったのか、SummaryとDeep Diveパートに分けてご紹介していきます。
Summary
アメリカ合衆国憲法の原本(デジタルデータではなく、物理的なモノ)がオークションに出品される。
この歴史的な財産をオークションで競り落とし、みんなで管理することを目標とするDAO(分散型自立組織)が組成される。
DAOが組成されることになったきっかけはTwitterでのミームの流行。
DAOは$47M(約54億円)相当の暗号通貨を世界中から集めることに成功し、クラウドファンディングの記録を更新。
ライバルが$43.2Mで落札し、DAOは敗北(※オークション運営に支払う手数料、ルールで設けないといけないバッファ、税金を除くと、DAOはそれ以上出せませんでした)
落札したのはヘッジファンドCitadelのCEO、Ken Griffin氏だとのちに発覚
浮き彫りになった課題は、Web3ゆえの情報のオープン性、クリプトの取引にかかるガス代の高さ
DAO、Web3の可能性を世界に知らしめた一件となった
Deep Dive
はじまりは、クリプトやWeb3とは一見遠く感じるところからです。
今年の9月に、アメリカ合衆国憲法の現物がオークションに出されることが発表されました。
アメリカ合衆国憲法は、1787年に500部刷られたらしいですが、現存するのは約13部。
そのうち2部は、個人の収集家が所有していて、今回、その原本が1部、Sotheby'sというオークションサイトで競売にかけられることになりました。
この発表から2ヶ月後の11月に、ConstitutionDAOという組織が作られました。
ConstitutionDAOは、オークションで競り勝ち、憲法を手に入れ、みんなで管理することを目標とする組織です。
(Constitutionは英語で「憲法」を意味し、DAOとはDecentralized Autonomous Organization、共通のゴールを見据えた分散型自立組織を指し、Web3の文脈でよく出てくる言葉です。)
ConstitutionDAOは、競売で勝つためのお金(暗号通貨)を参加者からかき集めました。
出資者にはその対価として、$PEOPLEという名前の「ガバナンストークン」が付与され、組織の意思決定に投票を通じて参画することが可能です。
組織が競売で負けた場合には、出資金は返却されます。
投票の例としては、ConstitutionDAOは憲法を手に入れた場合に、それをパブリックに展示することを計画していますが、どの団体(博物館など)と提携するか、米国の西海岸か、東海岸か、はたまた海外か、などの意思決定も全て、ガバナンストークンの投票によって行われるという仕組みです。
このプロジェクトは、最初はTwitterでのほんの冗談から始まったようです。
ミームが経済を動かす時代
映画「National Treasure」ではニコラス・ケイジが米国独立宣言書を盗み出そうとします。
それと今回のアメリカ合衆国憲法のオークションをかけて、みんなで憲法を盗んでやろうぜ、というようなネタ画像のミームがTwitterで作られ、広がりました。
インターネットフレンズらと一緒に憲法買ったら面白くね、という冗談でしたが、立ち上げメンバーの何人かが、一回ちょっとZoomで話さないか、となり、そこで、DAOを本気で運営して、お金を集めて、競売に参加することが決まりました。
ミームから始まったものが現実になる面白い流れです。
シリコンバレーの重鎮たちも言及します。
2010年代はミームが文化を牽引した。2020年代はミームが経済を牽引する。
わずか1週間で54億円を集める巨大組織に
米国時間、木曜日の夜にZoomでDAOの立ち上げが決まってから、翌週の木曜日のオークション開催日まで、1週間しかありませんでした。
Webサイト(https://constitutiondao.com)を構築するフロントエンドチーム、資金調達・トークン発行を実現するインフラを選定するチーム、リーガルを担当するチーム、博物館と話を進めるチームなど役割分担をし、時間の制約がある中、毎晩3時まで取り組む方も。
立ち上げメンバーはリリース直前のスタートアップさながらの、ものすごいスピードとエネルギーを発揮したようです。
この方々はだいたい各々の本業がある中、サイドプロジェクトとして参画し、前から仲の良い知り合いだったいうわけでもなく、初めて知り合ったメンバーも多数いたようです。
また、他の著名DAOも協力してくれたり、業界全体でこのプロジェクトを実現させようとしていたようです。
とてもWeb3的ですね。
Discordグループも数日で1万人以上に膨れ上がりました。
オークションで、実際にいくら支払えば競り落とすことができるかは、ライバルのお財布次第なので、事前に知るよしはありません。
ConstitutionDAOの立ち上げメンバーは、いったん$20Mをかき集めることを目標に据えます。
いきなり出資額が$6Mから$10Mに+$4M増え、何が起きたんだと騒ぎになることも。
ブロックチェーン上の取引は全て可視化されているので、ワンショットで1,000ETH(5億円弱)を投じた人が出現したとすぐに判明。
Discordをたどったらその瞬間は、 「おいおい、たったいま、誰かが1,000ETH入れたぞ...!」 「一体誰だよ!!」 と大盛り上がり。
Ready Player Oneのこのシーンが思い出されます。
調達目標であった$20Mは早々に達成し、その後、上限は$30M、$35Mと上げられていきました。
DAOは最終的に1.7万人から、わずか1週間足らずで、総額$47M(約54億円)を調達することに成功しました。
(これはWeb2型の1企業によるプロジェクトであれば到底成しえなかったのではないでしょうか。)
人民による、人民のために!
DAOへの出資理由は人それぞれで、
Web3、DAOとか聞いたことはあったけど、今まで関わったことがなかった。でもこのプロジェクトは自分にとって意義がありそうだから参加する人。
家族で米国に移民し、機会を得て、アメリカという国に特別な思いがある人。
もちろん、単純にクリプトやWeb3に興味がある人も。
インフラとして選定されたJuicebox(https://juicebox.money/#/p/constitutiondao)では出資をする際にメッセージを残すことができ、それを誰でも見ることができます。 移民してきた家族の歴史を残すようなメッセージもあります。
1955年:祖父・祖母がアメリカに移住
2021年:孫がアメリカ合衆国憲法の一部を購入
私自身移民として、この国が私と家族に与えてくれた多くの機会に感謝している。この歴史的な瞬間に関わりたい。
私と私の妻は、両方ともアメリカへの移民です。私たちの二人の子供は、アメリカで生まれたアメリカ市民です。God Bless America(アメリカに神の祝福を!)
私は、家族の中で、米国市民になった初めての人間だ。そして今、家族の中で初めて憲法の一部を所有する人間になる。行こうぜ!
リンカーン大統領の、
Government of the people, by the people, for the people
人民の人民による人民のための政治、という言葉が有名ですが、
by the people, for the people という言葉もあちこちで引用されました。
歴史的な財産を、特定の個人や、中央集権的な会社・組織が独占するのではなく、多くの人々で分散的に管理しようじゃないか。
「by the people, for the people」にはそのような思いが込められていて、このプロジェクトそのものがWeb3的な思想に基づいていることが分かります。
全米が見守るライブエンターテイメント
DAO発足の1週間後に当日を迎えたオークション。
その様子は、YouTubeでライブ配信され、みんなで見守りながら、Twitterのタイムライン、Twitter Spaces、Discordでワイワイする。(Clubhouse全盛期が思い出されました。)
Web3/メタバース時代の一大エンターテインメントという感じがしました。
これはSuperbowl(アメリカンフットボールの優勝決定戦)よりもはるかに面白い
最初は複数のプレイヤーがいる中、$10Mからスタートしました。
序盤からBrookeが$30Mを提示したことで、ほぼ全員脱落。
ここからBrooke vs Davidの一騎打ちが始まります。
(左がライバルを代表するBrookeさん、右がConstitutionDAOを代表するDavidさん。)
実はBrookeさんもDavidさんも、二人ともSotheby’sの社員です。落札者の匿名性を担保するために、代わりに出演しています。
もちろん、電話の先で繋がっているのが、購入希望者です。
電話で購入希望者の意向を毎回確認し、進めていくスタイルです。
ただ、BrookeさんとDavidさん、どちらがConstitutionDAOの代表なのかが明確ではなく、情報が錯綜していた一面もありました。
(Sotheby’sが正式にアナウンスするまでは明かしたらダメというルールだったらしく、ConsitutionDAOのコアメンバーも事前には言えなかったらしいです。)
「俺たちはBrookeなの?」「 俺たちはDavidらしいぞ」。「いや、俺たちBrooke説もあるぞ」というやりとりがあちこちでされました(笑)
そんな中、最終的にBrookeさんが落札価格 $43.2Mで勝利しました。
オークション終了後、すぐにConstitutionDAOが、David側であったことを明かし、敗北が決まりました。
全部見たい方はこちら:
なお、数日後に、Brooke側の落札者は、ヘッジファンドCitadelのCEO、Ken Griffin氏だったことが発覚し、これもまた騒ぎとなりました。
(ConstitutionDAOコアメンバーも、当日は一体誰と戦っているのかは知らなかったようです。)
課題
ConstitutionDAOが負けたことにより、数億円単位のガス代(イーサリアムブロックチェーン上での取引を担保するためにかかる手数料)が消費されただけで終わってしまったという見方もあり、もちろん多くの人はそれでも良かったと前向きですが、
とはいえ改めてイーサリアムのガス代の高さが浮き彫りになりました。
(例えば僕が500円分を出資するために支払ったガス代は5,000円です。)
また、Web3の諸刃の剣とも言えるかもしれませんが、オープンで誰でもプロジェクトに参画できるからこそ、情報がライバルにも筒抜けになってしまっていることも問題視されました。(今回の落札者は、ConstitutionDAOの軍資金の上限を最初から知っていました。)
最後に
ConstitutionDAOは敗北しましたが、人々はミームで遊び続け、余韻に浸ります。
最後までインターネットという感じがして楽しいですね。
プランB
憲法を買おうとする10,000人のクリプト友達 vs Brooke
我々は負けたけど、そんなことはもはやどうでもいい。Brookeのファンカメラがこちら
チームBrooke!
Brooke、このツイートを見てたら、僕は独身だよ
Brookeさんは一躍有名人となり、Web3クイーンと崇拝されるまでになりました。
また、SNS上では暖かい祝福の空気が流れ続けました。
インターネット上のなんという素晴らしい1日か
インターネットは、贈り物だ
(追い求めていた)本当のアメリカ合衆国憲法は、僕たちがこの道のりで作ってきた友達たちのことだったんだ
負けた側の陣営とは思えないような、非常に満足しながら、この一連の出来事を称賛する声ばかり。
今回、世界中の人が、投機的なお金儲けのためではなく、多額の資金を出し合い、ただ共通の目標を見据えて一致団結して、ムーブメントを作り出したことは、改めてWeb3の道のりに光を差しました。
インターネットはもともと1個人や1企業が独占的に占有するものではなく、Like-minded同士で集まり、所属や肩書きも関係なく、楽しくワチャワチャしたり、実験したりする場所から始まったのかもしれません。
Web3はとてもインターネット的で、インターネット黎明期を知る人にとってはきっと懐かしい感覚になるのではないでしょうか。
最後に、ConstitutionDAOが敗北後に表明したメッセージを紹介します:
私たちはアメリカ合衆国憲法の原本を落札することができませんでした。
これは私たちが望んでいた結果ではありませんでしたが、ConstitutionDAOは今夜、歴史に名を残しました。これは私たちが知る限り、物理的なモノを対象としたクラウドファンディングとしては、クリプト、フィアットを問わず最大のものです。皆さんと一緒にできたことにとても感謝していますし、ここまでこれたことにまだ衝撃を受けています。
Sotheby's(オークション)はこれまでDAOのコミュニティと一緒にやったことはありませんでした。私たちは、72時間以内にクラウドファンディングで最も多くの資金を調達した記録を更新しました。私たちは、美術館の管理者やアートディレクターから、ニュースで私たちのことを読んでethとは何かと聞いてくるおばあちゃんまで、世界中の人々にweb3の可能性について教えました。 また、その一方で、多くの皆さんが、アメリカ合衆国憲法のような資産を、美術館やコレクションを横断して管理することの意味を学んだり、初めて美術品のオークションを見たりしました。
17,437名の方にご寄付いただき、寄付金額の中央値は206.26ドルでした。これらの寄付のうち、かなりの割合が、初めて初期化されたウォレットからのものでした。
お客様は、Juiceboxを通じて、比例配分された金額(事実上、ガス料金を差し引いた金額)を返金してもらうことができます。この件についての詳細は、明日の発表をお待ちください。私たちのチームはこの1週間眠れませんでしたので、明日の午前中に再開する前に、チームの皆さんに休息を取っていただきます。
このプロジェクトには、皆さん一人ひとりが関わっています。また、このプロジェクトのパートナーにも感謝しています:Alameda Research、Endaoment、FTX US、Juicebox、Morning Brew、SyndicateDAO。
TwitterでBrookeさんのファンが続出した結果、みんなの声、ConstitutionDAOのメッセージも本人に届きました。
Sotheby’s公式アカウントが「Brookeが登場したぜ」とツイート
Brookeさんご本人がTwitterアカウントを開設し、ConstitutionDAOのメッセージに言及しながら、
ConstitutionDAOのメッセージが本当の意味で重要です。ConstitutionDAOは昨夜、歴史に名を刻みましたが、これからも戻ってくるでしょう。そして次はもしかしたら、私と一緒に・・・。
Brooke万歳!
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普段はTwitterにいます!: https://twitter.com/ishicorodayo
Brookeさんを応援するBrooke DAOを設立しました。興味のある方はDMください(嘘)
DAOコアメンバーの話が聴けます:
https://unchainedpodcast.com/constitutiondao-did-not-win-the-auction-but-it-demonstrated-the-power-of-daos/
https://www.clubhouse.com/room/xjj0d32o